辛 美沙【著】
四六判並製/320頁
本体1600円+税
ISBN978-4-902078-17-6
2008年11月刊行 重版出来
※こちらの価格には消費税が含まれています。
※この商品は送料無料です。
周縁からメインストリームへ----アートの世界は変わった。
CONTENTS
Ⅰ. アート・インダストリー アートの世界は変わった
Ⅱ. インタビュー アートの仕事術
アートとは思わぬところに立ち現れるものである
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト×辛美沙
批評を批評する
リチャード・ヴァイン×辛美沙
アーティストはタフなビジネス
キム・スージャ×辛美沙
Ⅲ. アーティストのキャリア
東京藝術大学 アート・アドミニストレーションの授業から
【1】アートワールドへのイントロダクション
【2】プレゼンテーション
【3】職業としてのアーティスト
【4】アートと経済の関係
【5】マーケティングとアート
【6】アートの広報活動
【7】ファンディングについて
あとがき――増刷にあたって
本書 『アート・インダストリー』 が世に出たのは2008年です。「おわりに」 を書いている最中に、リーマン・ショックが起き、アート・マーケットもズタズタになりました。1980年代のバブルの記憶を持つ私たち日本人は、マーケットが回復するには、あの時と同じかそれ以上の時間がかかるのではないかと思ったものです。しかし、アートは実はもっとも早く回復した領域の一つでした。それは、ある突出したアート作品が不動産や株や預金を超える「優良な資本」だとマーケットがとっくに気づいていたからです。
トマ・ピケティ著 『21世紀の資本』 が世界中で大ブレイクとなりました。単純な不等式、r > g に集約されるその理論は、資本の運用から得られる収益率(return)は、働いて得る賃金による経済の成長率(growth)を上回る、だから金持ちには絶対に追いつけない、それが資本主義だというのです。それはまさに、資本としてのアートが富を生み、またヘッジファンドや新興国のニューマネーが資本となるアートを買いあさるアート・マーケットの構造を言い当てています。
世界の富の多くがアジア、中東などの非西欧圏から生まれている現在、アートの世界地図が塗り替わってきています。世界トップレベルのアートフェアがアジアで開催され、砂漠に美術館が建設され、オークションでは高額作品を非西欧圏のコレクターが買う。経済的な発展に話題が集中する中国、東南アジアやまた中東も、私たちと同じく、何百年もの間、欧米のものだったアートなるものを、どう咀嚼するかという問題を包括しながら前進しています。経済のパラダイムシフトが起こるとアートのパラダイムシフトが同時に起こるのです。
これらグローバル経済の中での複雑で多様なアートの変動は、金融と連動するほどの大きさのアート・マーケットが存在しない日本ではたいそう見えにくいものになっています。しかし、アーティスト、ギャラリスト、コレクター、批評家、キュレーターなどアートの世界に生きる私たちは、経済のうねりに耳をすませながらも、その中でアートがどうあるべきか、何をすべきなのかを考えるときに来ていると思います。その新たな模索のために、本書が一助になればと願わずにはいられません。
2015年6月4日 辛 美沙